舞台に立っているあいつは悔しいけど
誰よりも格好良いのです。




歓声、歓声、歓声。時折カワイイ女の子の声。ちなみにあたしは混ざってない。


我が学校には、名物の男子四人組が居て。まるでどっかの漫画に出てくる金持ち四人みたいだけれど、あいつらは別に金持ちでもなんでもないと思うし、普通の家庭である。もしかしたら、上流階級なのかもしれないけれど。まぁ金銭面なんてどうでも良い。
彼ら四人は、バンドを組んで、良く放課後ライブ、やら学園祭での公演、やら色々やっている。しかも、曲はメンバーの自作。これは、尊敬せざるを得ないし、それにどっかのビジュアル系より全然良い曲なのだ。

今日はそんな放課後ライブの日だった。
月に一度ほど行われるこのライブは、生意気にチケット制だったりする。ライブ一週間前に、抽選会があり、当たった人のみが聞ける。舞台は中庭の特設会場。まぁ、当たらなくても割と風に乗って聞こえてきたりするけれど。

そして、教師も聞きにきたりしているのだから・・・ますます、驚きである。



音が鳴り止んで、曲が終わった。歓声は止まらない。
舞台の上の四人がこそこそ話している。

そして一番中央、最前で歌っているアイツが、マイクを手に、とった。



「アンコールにお応えして・・・ラスト一曲!!」



これはオリジナルではなく、カバーだった。でも、いい感じにアレンジが効いていて。
そして悔しくも。アイツの声は、この曲にぴったりだった。






いつだって舞台を見に来るあいつは悔しいが
誰よりも可愛いんだ。





「はい、お疲れギル。」


「おー、さんきゅー・・・」



ライブのあとは、いつも喉がカラカラに渇く。差し出されたペットボトルのお茶は、非常にありがたかった。
すぐさま喉に流すと、清涼感が広がる。



「うめえーーーー」


「普通のお茶だけどねー。ま、ギルは喉使ってるからなー。」


「いやいや楽器も疲れるやろ、フランシス。ん、アーサー。もう帰るん?」


「終わったし良いだろ。じゃあな。」



いつも、こうだ。
ベースのアーサーは、ライブが終わるとすぐにでも帰る。
誰かを待たせているのか。ひょっとしてファンの子か。
悔しいが見事に音を操るアーサーは、ボーカルの俺よりファンが多いと思う。

控え室代わりの教室をさっさと出て行ったアーサーを見送ると、フランシスがによっと笑った。



「ねぇねぇ、坊ちゃんはさぁ、いーっつも早く帰るよね? ひょっとしたら誰か待たせてるのかね。オンナノコ、とか?」


「・・・ホンマにフランシスはそういうことはよう見とるよなぁ。」


「あ、けど俺も同じこと考えたぜ。」


「やっぱり? だよなぁ。坊ちゃんは彼女居るんだろうな、きっと。」


「お、あそこにアーサーおるでー。」


「「マジで!」」



窓から覗き込むと、確かに門にアーサーの姿が見えた。そして、校舎からもう一つ、華奢な影。



「やっぱり、彼女か・・・」


「くっそー、良いなぁ。お兄さんも彼女ほしい!」


「っていうかフランシスは告白断ってるやん。」


「だって理想の子がいないんだもん・・・なんつーの、一緒にカラオケいったときにさ、媚びる歌い方で『桃色片思い』歌われたら、萎えない?」


「あー、それ分かるわぁ。わざと音外したりとかな!」


「そうそう、ありのままを全部ぶつけて欲しいんだよ!」


「・・・あいつ、」



ぽつりと漏れた声。
そう、アーサーと並んでいるその女生徒には、いたく見覚えがあった。



「ん? ギルどーしたん?」


「なんでも、ねぇよ。」



そうか、アーサーと付き合ってるのか、あいつは。
いつも一番後ろ、俺から見て右端に居る女生徒。黄色い歓声ひとつ上げず拍手だけ送る。綺麗な目をしている、やつだった。
どんなときも、ライブを見に来ている。気づいたのは五回目ぐらいのときだが。

まぁ、名前も知らない存在、であることは変わりない。

だが少し、少しだけ・・・ショックを、受けている俺が居た。






俺じゃないやつの為にライブを見に来る幼馴染に悔しいが
完璧に惚れている俺。




。帰るぞ。」


「・・・うん。あの、さ。バイルシュミット、はほんとに歌下手だよねー。なんで、あいつがボーカルなのか分かんない!
それ以外のメンバーはぴったりなのに。ヴァルガス兄弟のほうが、上手いんじゃない?」


「・・・そうだな。」



その後も、はバイルシュミットは音痴だ、とか自分に酔っててキモイだとかベラベラと悪口を言って見せた。震える声で。どもりながら。

俺はそれを、黙って聞いていた。



「アーサー、のベースは凄く、かっこよかったよ。うん、すごく。」


「ドウモ・・・。」


「あはは、なんでカタコトなの? ね、また来月のチケットも頂戴ね。アーサーのベースを聴きに行くから!」


「ああ、フランシスに言っておく。」



飲み込んだ言葉が出てきそうなのを必死にこらえる。

お前がライブに行くのは、俺の為じゃない。アイツの為だろ。
本当は下手なんて思ってない。アイツの歌が大好きなんだろ。


本当は、俺となんかじゃなく、アイツと並んで帰りたいんだろ?



「っなぁ、。」


「なに、アーサー?」


「・・・本当は___本当のこと、言ってくれよ。」



ドサリ、と音がした。が鞄を落とした音だ。



「な、にが。あたしが、好きなのは、」


「俺じゃないだろう? なぁ、」





早くふってくれよと言いたいのに
上手くいえない俺が居る。



こんな後悔をするなら名前くらい聞けば良かった。


いつになったら、貴方の為にライブヘ来ました、って
言えるようになるんだろう。





***

「その時僕らは青春の中にいた!」様へ。

すれ違いとかって青春ぽいかなぁと。
アーサーが可哀想なことになってしまいました。
最後はそれぞれの心の内。上からアーサー・ギル・ヒロインです。

有難う御座いました!



5.11