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「…ん…?」 なんだか寒い気がして私は目を覚ました。 (あれ、暗い…?) 不吉な予感が頭をかすめた。恐る恐るポケットの携帯を引っ張り出し、現在時刻を確認すると。 「…10時…過ぎてる…」 無論下校時刻なんてとっくの昔に過ぎ去っていた。 |
(しまった…。あと10分のつもりが4時間も爆睡してしまった…) 最近生徒会の仕事や部活や課題で忙しくて寝ていなかったとはいえ、いくらなんでも迂闊だった。 しかし後悔している時間は無い。今はまだ見つかっていないものの、そのうち警備員の人が見回りを始めるだろう。 ダッシュで机の上の荷物を片付け生徒会室を出ようとしたときだった。 廊下から誰かの足音が聞こえた。しまった、警備員かもしれない。 私はとりあえず息を潜め、私は気配を消すことに専念した。そう、白く細いモヤシのように。私はモヤシ、私はモヤシ。 しかし生徒会室にモヤシがぽつんと置いてあるのは異様でしかなく、モヤシになりきっていた私の気配は感づかれてしまったようだ。 足音はこちらへと徐々に近づいてきて、私が潜んでいる生徒会室の手前で止まった。 足音の主は、静かに、カラカラと乾いた音を立ててドアを開けた。 思わず私は身構える。が。 「…!!」 「…カンナ?」 「…アーサー…?」 「あ、起きたのか?」 いきなり扉を開けて入ってきたのは幼馴染兼腐れ縁その1である生徒会長、アーサーだった。 お、起きたのか?って、こんな時間になる前に起こして、よ……。 「寝てるの知ってたんなら起こそ…!!」 「じ、時間と声量考えろよばかぁ!!」 文句を言おうとしたら、無理やり手で口を覆われ小声で注意される。 「…分かったから手離して。で、なんで起こしてくれなかったの?」 「それは…」 …何だか彼が妙に焦っているように見えるのは気のせいだろうか。 暗いからよくわからないけれど、顔が赤いような気がしなくもない。 「…お、お前最近忙しいだろ。授業中とかぼーっとしてることもあるし」 「ぼーっとって…」 言い返そうとして、気づく。 「あれ、なんで私の授業中の様子知ってるの?」 「…う、後ろの席だからたまたま見えてただけだ!!」 「ふーん…?」 確かに彼は現在教室の一番後ろの席で、私はその斜め右前。見ようと思えばいつ でも見ることができるだろう。 でも、私が授業中に意識を飛ばす頻度は割と低いし、なるべく先生に見つからな いように教科書やら手のひらなどで偽装工作をしてからするようにしている。そ れを見抜くって言うのはチラ見しただけじゃちょっと無理があるんじゃないのかな? 色々沸いてきた疑問を問い詰めようとした時だった。 「おい、隠れろ!」 「え」 アーサーが私を無理矢理机の下に押し込め、自分も入ってきた。ち、近い!顔、近い! 私が声も出せずにどきどきしていると、誰かが部屋に入ってきた。 警備員、かな。だからアーサーは急いで隠れたのか。 「ど、どうするアーサー?」 アーサーの吐息が頬にあたる。動悸が止まらない。 こんなに密着してたらいつもより速い鼓動とか、恐らく赤くなってるであろう顔とか、色々気づかれそうだ。 「どうするもこうするもやりすご……………」 「……どうしたの?」 「……ぴ」 「ぴ?」 「ぴっぷしょん!!」 な、なにくしゃみしてんだおまえ!! 「…そこ、何してる!!!」 『げ』 アーサーのくしゃみのせいで警備員の人に見つかってしまったらしい。 懐中電灯でこっちを照らしつつ歩いてくる。 「なんであそこでくしゃみしちゃうのさぁー!!」 「う、うるさい!生理現象だから仕方ないだろ!そんなことより今は逃げるぞ!!」 「え?あ、ちょ、引っ張らないでよ!!」 「こら、待ちなさい!!」 後ろから追ってくる気配がして、アーサーは私の手を掴み走り出す。 夜になり少し気温が下がった中で、やたらその手は温かく感じられた。 警備員の持つ懐中電灯のあかりが、暗い校舎に私達の影をチラチラと映し出している。 B級映画の陳腐な逃走劇みたい。余裕なんてないはずなのに、高揚しつつそんなことを考えている自分がいた。 と、ここで生まれる新たな疑問。 「急ぐのはいいけどどこから出るの?もう窓とか門とか閉まってない?」 「……」 「…考えてなかったんだ」 「う、うるさい!!」 「と、なると…」 ちょっと止まって顔を見合わせる。 『強行突破?』 声がハモった。 にやりと妖しく笑うアーサー。私もつられて口角をあげる。 「おし、行くぞ!!」 「りょーかいっ!!」 暗闇の中、私たちは駆け出した。 「…ここ、まで、くれば」 「大、丈夫、だな」 やっとこさ警備員の人を振り切った私達は、校外に出て立ち止まった。 アーサーも私も走ったせいで息がきれている。膝に手をつきうずくまって息を整える。 ようやく落ち着いた私が顔をあげると、同じく顔をあげたアーサーと目があった。 「……」 「……ぷ」 「あははははっ!!何私たち必死こいて走ってんだろ!!」 「ほんと馬鹿だよな俺ら!!」 緊張の糸が切れた私たちは顔を見合わせて爆笑した。 「くくっ、もうほんと何してんだろ…」 「いやー、こんなに走ったの久々だ…」 「おっさん臭いよその台詞」 「うるさいっつーの」 一段落ついたところで私は改めて彼に向き直った。 「ありがとね、アーサー。…わざと寝かせてくれてたんでしょ?」 「…な、なんの話だよ」 「ま、大方しばらくしたら起こそうと思ってうっかり一緒に寝込んじゃって、起 きたらまだ私寝てて辺りの様子見に行って帰ってきたらちょうど私が起きたとこ 、みたいな感じだったんだろうけど」 「…お前、察しがいいにもほどがあるぞ…」 「ふふん、女子を甘く見たら駄目だよ?」 「あーはいはい。まあ、その…よく寝れたのか?」 「おかげさまで」 「…そうかよ」 なんかちょっと照れるかも。 ごまかそうとして視線をあげると、満天の星空が見えた。 「送ってく。帰るぞ」 「…うん」 アーサーは何気なくさりげなく、わたしの手をとった。 なんだか恥ずかしいような、うれしいような、ちょっと不思議な気分になって、 私はアーサーの手をぎゅっと握ってみた。 握り返された手はさっきと同じ、やわらかい暖かさを持っていた。 |