ぱんっと机をたたく音が聞こえてきた。いや、ぱんっというよりどんっと言ったほうがいいのかもしれない。
それだけ鈍く大きな音だった。音のするほうを見てみると、予想通り彼が顔を真っ赤にして拳を震わせてる姿があった。
あらら、ほんとに怒っちゃった。と心の中で笑って呟きながら私は知らんふりして前を向いた。
ゴンッ
また鈍い音が聞こえて、それと同時に頭に激しい痛みがはしった。アイツ教科書投げてきたな。ここで怒ったら台無しだ。さも気にしてないような反応で教科書を拾う。
確かこのページだったっけな………。「ふざけるな」そこには乱暴な字でそう書いてあった。
その上には私の字で「フランシスと付き合うことになった」と書いてある。もちろん嘘だ。あんなやつと付き合うような広い心を私は持ち合わせていない。
これは皆(といってもフランシス、アントーニョ、私の三人)の愛しのギルベルトちゃんをからかうための嘘。
予想通り彼はぷんぷんと怒っている。可愛いやつだ。
ふざけてないよ、私フランシスと付き合う
あいつのことはお前がよく知ってるだろ、なんでだよ
……好きだから
心の中で笑いながらそんなやりとりを繰り返す。どうやらギルベルトは完全に信じ込んでいるらしい。
ほんとに面白い。けれど、嘘でもそんなことを書くなんて、なんというか…実に気持ち悪い!ギルベルトもなんで信じちゃうのか…分からない。
日ごろの私たちの行動を見ていれば、私がフランシスのこと好きじゃないなんて分かるはずなのに。
まぁ…ギルベルトは可愛い素直なお馬鹿さんだからね。おっと、ローデリヒの口癖がうつっちゃったよ。
そんなやりとりが続き、ギルベルトは教科書とともに私のところにやってきた。ぴんっ、と私の額をつつく。
「お前本気なのかよ、ばかか?お前はばかなのか?」
「はいはい私はばかですよ。それに、本気じゃなかったら付き合わない。私の性格知ってるでしょ?」
そういうとギルベルトは黙って、私の頭をくしゃくしゃと荒々しく撫でた。「わかった。じゃあ、がんばれよ。」
そろそろいいかな。「なん「でも俺はあいつよりもっとお前のこと好きだからな!」……………え?」
なんてね、嘘でした!と言おうとした瞬間ギルベルトにさえぎられた。しかも意外な言葉で。え、ギルベルトが私のことを好き?
今日はエイプリルフールじゃないぞ。という言葉は虚しく心の中に消えて、私は口をぱくぱくさせて結局何もいえなかった。
ちょっと、フランシスさん、アントーニョさん…あんたたちが居ないところでなんか…変なことになってますよ。
周りはわいわいと騒いで彼の言葉はすぐに消えたが、私の中にはずっと響いて離れなかった。いや、ちょっと今の私はっきり言って気持ち悪い!
「………何か言えよ。」
「なにって…。(なにいえばいいっていうのよ!)」
「……。」
何を考えたのかギルベルトはふたたび教科書を取り、ペンをはしらせた。ちょっと、それ鉛筆でもシャーペンでもなくペンだよね?
消せないじゃん、と思いながら、ギルベルトが書き終わるまでおとなしく何もいわずに黙って待っていた。
お前がなんていおうと、あの野郎になんていわれようとも、俺はお前のことが好きだ
っ!…………なんて恥ずかしいやつ。こっちが恥ずかしくなる。普段のあんたの脳からなんでそんな言葉が思いつくのよ。
いやいやいやいや、べつに嬉しいとか思ってないから。ぜったいに、こんな言葉だけでちょっと不覚にもきゅんとしちゃったなんてありえないんだから。
きき、気持ち悪い。今の自分がとても気持ち悪く見えてくる。うわ、ちょっと…え、いや。えー!
ほんとにフランシスとアントーニョ!サボってないで、こっち来て助けろ。なんて言葉も虚しく、私の心臓には意味の分からないきゅん!が残っていた。
………………好、き。
いや、まさか。あ、ありえないでしょ。というか、なんで私がこんなに動揺してるのよ。おかしい、おかしいおかしいおかしい!
動揺するのはギルベルトだけでいいっていうのに。あーもうなんか苛立ってきた。
ギルベルトのくせに私を動揺させるなんて、何百万年早いんだよっ。この、ばか……。
「………嘘よ。」
「…は?」
「ぜんぶうそ!フランシスと付き合ったってことも、私とフランシスが愛し合ってるなんてこともぜーんぶうそ!」
「………今日はエイプリルフールじゃねぇぞ。」
「それはこっちのセリフよ!」
ばんっと今度はこっちが机をたたく。ギルベルトのくせに、ギルベルトのくせに…心の中でそう何度も叫ぶ。
「私はフランシスよりあんたのことが好きよ。
あんたは私のこと好きとか言ってたけど、それ以上に私の方があんたを愛してる!バーカ!」
「……?」
「私をここまで動揺させたんだから、責任とってよね。」
「………………。あぁ、当たり前だろ。だってこの俺様だぜ?」
「……うぜぇ。(うわ、ほんと今の私きもちわるい。)」
「な、なんだと?!」
「(だってこんなに可愛いバカな男にたいして不覚にもきゅんってなってカッコいい、と思ってしまったんだから。)」
落書き「ばか、大好き。」
だらけの教科書
(そう教科書に書いて、おもいきりギルベルトの顔におしつけた)
(なんや、あの二人上手くいったやん)
(まぁな。このお兄さんが考えた作戦だ。しかし、二人とも鈍感すぎて、ちょっとお兄さんハラハラしちゃったよ)
(まぁ結果よければあとはよし…さっそくプーをからかいにいくで)
(そうだな)